今回は、H28年経営法務の第3問について解説します。
H28 第3問
以下の会話は、中小企業診断士であるあなたとX株式会社(以下「X 社」という。)の代表取締役甲氏との間で行われたものである。X社は、αの製造販売事業(以下「α事業」という。)を営んでいる。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。
甲 氏:「おかげさまで弊社のα事業は好調です。そこで、業容を拡大したいと考えていたところ、先日ちょうど、取引銀行を通じて、弊社と同じα事業を営んできたY社から、事業の選択と集中を進めたいから同事業を買収しないかという話をもらいまして、現在前向きに検討しています。Y社は、α事業以外の事業も営んでいるので、新設分割でα事業をいったん切り出して子会社Z社を設立し、弊社がY社からZ社の全株式を現金で買い取るスキームを考えています。何か注意しておいた方がいいことはありますか。」
あなた:「[ A ]。それから、同業他社から競合する事業を買収することになりますから、独占禁止法に抵触するかどうかも問題になります。少なくとも公正取引委員会への届出の要否については検討しなければなりません。」
甲 氏:「[ B ]。」
あなた:「[ C ]。いずれにせよ、事業の買収、特に買い手の場合には、大小様々なリスクを伴いますから、その分野に詳しい専門家からアドバイスを受けないと後で痛い目を見ますよ。ちょうどいい人を知っていますから紹介しますよ。」
甲 氏:「ありがとうございます。」(設問1)
会話の中の空欄Aに入る記述として、最も不適切なものはどれか。
ア α事業に関係する債務は、Z社が承継する債務から除外することはできないので、α事業に関係する簿外債務がないかどうかの調査が重要になります
イ Y社がα事業に関して締結している契約の中に、会社分割が解除事由として定められているものがないかの確認が重要になります
ウ Z社においてα事業を営むのに新たに許認可を取得することが必要な場合には、その許認可を得るのに必要な期間やコストを把握しておく必要があり、そのコストをX社が負担するのかY社が負担するのか交渉する必要があります
エ 契約の分割等の要否を検討するために、Y 社が、α事業とそれ以外の事業の双方で、同一の契約に基づいて使用しているリース資産やシステムがないかどうかの確認が必要になります
(設問2)
会話の中の空欄BとCに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア B:株式買取りのスケジュールには影響しますか
C:公正取引委員会が短縮を認めてくれない限り、最短でも届出を受理されてから、30日を経過するまでは、株式を取得することはできないので、スケジュールに影響しますね
イ B:届出を行うのは、X社ですか。Y社ですか
C:Y 社です
ウ B:届出を行う前に、公正取引委員会に相談に行くことはできるのですか
C:できません
エ B:どんな規模でも届出が必要になるのですか
C:X社の企業グループ全体の国内売上高が10億円以上の場合で、かつ、Z社とその子会社の国内売上高の合計が1 億円以上の場合に、届出が必要になります
解説
設問1は会社法(組織再編)、設問2は独占禁止法に関する問題です。
それでは早速各設問を見ていきましょう。
(設問1)
まずは甲氏が言っていることを整理します。
下のように図にすると考えやすいでしょう。
それを踏まえて各設問を見ていきましょう。
今回は最も不適切な選択肢を1つ選ぶ問題です。
選択肢アは、「α事業に関係する債務は、Z社が承継する債務から除外することはできない」とありますが、新設分割の場合、権利や義務の1部だけを承継することもできるので、「除外することはできない」と断言することはできません。
そのためこの選択肢は×です。
念のため残りの選択肢を見ても選択肢イ、ウ、エに特に問題はなさそうです。
よって、設問1の正解は選択肢アとなります。
(設問2)
独占禁止法に関する問題です。この問題は少しマニアックな問題ですので、解けなくてもOKです。
念のため各選択肢を見ていきましょう。
選択肢アはその通りで、株式を取得できない禁止期間があります。
選択肢イの届出は、株式の取得を仕様とする企業が行わないといけないため、Y社ではなくX社が行います。よってこの選択肢は×です。
選択肢ウは、届出を行う前に相談はできるので×です。
選択肢エは、とてもマニアックですが、株式を発行しようとするX社の企業グループ全体の国内売上高が200億円以上の場合で、かつ、株式発行会社のZ社とその子会社の国内売上高の合計が50億円以上の場合に、届出が必要になります。
よってこの選択肢は×です。
以上から、正解は選択肢アとなります。
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